【小説】プレイ-獲物-/M・クライトン
(以下少々ネタバレあり)
文庫になるのを心待ちにしていた,ナノテクノロジーをベースにしたサイエンスホラー。ひとつひとつはアリほどの知性ももたないナノサイズの粒子が,膨大な数集まることで分散型の知性を構築するという基本アイデアで,体がむず痒くなりそうな物語を最初から最後までひっぱっていきます。
このアイデアの根源は,サンタフェ研究所のスチュアート・カウフマンという物理学者が提唱した相転移として創発する生命という考えかたにさかのぼることができると思います。カウフマンの考えかたは分子同士が相互作用し,そのつながりが自己組織化的に形成されることで,自己複製できる分子ネットワークがうまれ,これが原始生命となりうるというものです。(ちなみにカウフマンは作者クライトン原作のジュラシック・パークの主人公数学者のモデルという話です)
その後バラバシという数学者によって,このつながりを構成要素(ノード)とその連携(リンク)という形であらわしたときに見られる普遍的な数学的特徴が明らかにされました。さきの原始生命では分子がノード,相互作用がリンクに相当します。バラバシはこの数学的特徴が,インターネットや経済活動,ウイルスの流行などの社会的複雑性にも拡張できると考えました。
この特徴はコンピュータ上での分散処理にも類似性がみられます。個々のプログラムをノード,それらのプログラム間の入出力をリンクとしたプログラムの集合体で人工生命を構築するという研究の方向性につながります。
さてここまでが現実のサイエンスの話です。本書においてフィクションとしてクライトンは,ナノ粒子をノードとする自己組織化生命体を創造したわけです。ここで問題となるのはナノ粒子同士の相互作用(リンク)はどうなるかという点です。ところがどうも本文中を読んでも,どのような機構で他の近隣ナノ粒子と相互作用するかはかかれていません。より細かくいうと,このシステムが実現されるためには,個々のナノ粒子が近隣の粒子を認識し,かつそれに対しての反応することが必要です。後者は主人公の書いたプログラムコードによるものと説明があるのですが,前者の周囲との相互作用の認識方法が不明です。
とまあ細かい粗探しをしてしまいたくなるぐらい,エンターテイメントとしてはリアリティを楽しめる作品です。ただエピローグ部分に本編の謎解きを羅列したような記述があって,プロットだけを読んでいるような点がちょっと興ざめです。
展開は,映画化を念頭においたかのような実にシンプルなストーリーで,ハリウッド的なお約束は随所にあって,好きな人は(私のことです)かなり楽しめると思います。物語後半でナノ粒子生命体はなんと人間の形によりあつまって登場人物を模倣してしまうのですが,閉所空間で,メンバーの中に誰か異生命体が紛れ込んでいるというくだりも「遊星からの物体X」さながらでいい感じです。洞窟の中にたくさんの卵(?)が密集した「巣」があったり,最初のころの犠牲者がその巣の中にどろどろになってとりこまれていたりするところなんかは「エイリアン2」のまんまです。そして最後は・・・まぁご期待通りの展開,と云うにとどめましょうか。
結局のところこういうバカっぽさ満点のSFは,見事に私のツボを命中させてしまいます。文句は多いけど,可愛さ余って憎さ倍増というような気分です。塵シリーズということで(?)ペレグリーノの「ダスト」とあわせてぜひ映画化してほしいものです。








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