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Feb 25, 2007

骨髄多能性幹細胞は捏造だったのか

どうしても触れておきたい記事。またかよ,という感じですが,また捏造疑惑です。

万能細胞の論文に「重大不備」 02年ネイチャー誌掲載(朝日新聞2/25)

 ネズミの骨髄の幹細胞から、多くの臓器になりえる「万能細胞」を作り出した、とする02年6月の米ミネソタ大の研究者の論文について、「重大な不備」があるとの結論を同大がまとめた。AP通信が23日、報じた。

論文は、キャサリン・バーファイリー博士らが執筆し、英科学誌ネイチャーに掲載された。ネズミから取り出した幹細胞が、脳、心臓、肺、肝臓などの細胞に育つ能力があることが確認できたとしていた。

 しかし、同大の専門家委員会は、育った細胞を確認する過程に問題があり、そのデータに基づく論文の解釈は正しくない可能性があるとした。ただし、捏造(ねつぞう)ではなくミスだとしている。

より詳しい顛末のソースも,英語ですが,載せておきます。
Adult Stem Cell Study Flawed
Flawed stem cell data withdrawn

 MAPC(多能性成人前駆細胞)の存在は,発表以来相当騒がれましたが,その存在の確からしさについては議論となっていました。私も,このMAPCの検出を彼らの詳しいプロトコールも参照しながらこころみたことがありますが(骨髄ではなく臍帯血ですが),何度も試してもそれらしき多能性の細胞は出ませんでした。彼らは,疑い深い研究者を呼んで,MAPC培養トレーニングなども主宰していたようですが,血清ロットの問題だとか,作業者のテクニック上の問題だ,出現する確率がおそろしく低い,などといっているうちに,いつの間にか「MAPC」は難しい,という大方のコンセンサスが出来上がりました。彼らの提唱する「MAPC」という名称が,彼らのグループ以外に浸透しなかったのはやはり,彼らと同じ方法によって誘導できたグループがほとんどなかったからです。医療やビジネスとしても手を挙げるところがなかったのも同様で,百発百中でなかったためです。

 この論文が写真の取り違えのようないわゆる「ミス」でなく,捏造だったとしたら(そういえば,韓国のESグループの捏造のときも,最初は写真の取り違えのレベルの話でした),各国の研究者は大きな回り道をさせられたことになります。たとえば,MAPCの解析をしている研究者も国内にもいますが,一体彼らの調べていたものの正体はほんとうは何だったのかということになります。それ以外にも,MSC(間葉系幹細胞)やEPC(血管内皮前駆細胞)といった他の組織幹細胞との関係だとか,この論文を足がかりに書かれた論文の論理構築などにも影響が少なくないと思います。

 この問題は共同通信や朝日新聞がとりあげたことで国内でもますます注目される可能性があります。再生医療は眉唾ばかりだという印象になってしまっては,医療応用の面でも大きなマイナスになります。まずはどこまでが真実なのか,見極める必要がありますし,著者らは周囲の疑問に答える必要があるでしょう。

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Feb 19, 2007

ハインリヒの法則

事故に関する有名な統計的観察に,「ハインリヒの法則」というのがあります。1件の重大事故の影には,29件の軽微な事故と,300件の軽微なヒヤリが隠れている,というものです。技術者なら,品質管理上,ヒヤリ・ハットという言葉で,常に心にとどめておかなければいけない概念です。

出産時に命の危険、年間2300人の妊婦が遭遇

出産時の大量出血などで母体に緊急治療が必要なケースが少なくとも年間2300件以上あり、これに基づく推計で出産の250件に1件の割合に上ることが、日本産科婦人科学会周産期委員会(委員長・岡村州博東北大教授)の調査で判明した。
 妊産婦死亡については国の統計で10万人に6人とまれなことが知られていたが、生命の危険にさらされる妊産婦が多数に及ぶことが初めて明確に示された。
 調査は昨年、全国の同学会卒後研修指導施設と救命救急センターの計998施設に対して実施。2004年に出産した妊婦で、妊娠出産に伴い、重い意識障害や多臓器不全、脳出血、子宮破裂、肺そくせん、2000cc以上の大量出血など、生命に危険があると判断した数と症状についてアンケートした。
 335施設(回答率33・6%)からの回答を集計すると、妊産婦数は12万4595人で、このうち生命に危険があったのは2325人。回答施設には重症患者が集まる大規模施設が多く、20人が出産時の大量出血、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)後の頭蓋(ずがい)内出血などで亡くなっていた。
 この結果を、施設規模などを調整しながら、全国の出産数と妊産婦死亡数に当てはめると、高度な救命措置が必要な妊産婦は、推計で年間約4500人、約250人に1人の割合で発生していることになる。
(2007年2月17日14時35分 読売新聞)

出産に関してもこの法則をあてはめると,10万人に6人の死亡率という国の統計をもとに考えるなら,10万人に170人(570人に1人)の,死亡には至らない事故と,10万人に1800人(55人に1人)のあやうく被害を招きかねない状態が隠れていると考えられます。

命の危険をともなう事故は250人に1人起きているという記事の調査結果はまさにこの法則そのものといえます(余談ですが,こういう観測的事実を取り扱うときは,エンジニアなら,250人と570人はオーダー的にほぼ同じと考えます)。およそ50人に1人の,ヒヤリがそのうしろに隠れているかと思うと,なかなかぞっとする話でもあります。

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Feb 02, 2007

番組捏造と教育

あるある大事典での捏造の話ですが,捏造の事実はその責任まで,しっかり追及してほしいところです。それはともかく,結論ありきでデータを作っていくというやり方がテレビ番組の根幹にある以上,同様の問題は今後も出るでしょう。このやり方はサイエンスではなく,サイエンスフィクションです。残念ながらこうしたやり方を,科学的な思考方法だと勘違いしている人が多い(理系の学生にも)のもまた事実です。そういう点で,教育的に良くないと考えることもできると思います。

放映を見て何も考えずになるほどと思ってしまう人が多いのもまた不思議なところです。これに限らず,例えばコラーゲンを飲むだけで肌の張りがよくなるとか,アミノ酸でダイエットできるとか,健康食品系には科学的根拠の不明なわけのわからない情報はたくさんあります。ちょっと考えれば,どこにでもある成分だったり,体に入ったら分解されると気付くはずです。ほかにも風邪薬に入っている有効成分のタンパク質のリゾチームなんかも,よく考えると不思議です。鼻水にリゾチームが含まれていて免疫に関係しているという部分はいいとしても,それを経口で体に入れてもそのまま効くわけありません。

科学の本質は批判的に物事をみることにありますが,テレビ番組の展開は視聴者に考える暇を与えないような勢いで構成するのが一般的のようです。バラエティ番組などは親が子供に見せたくない番組にあがることが多いようですが,一見まともな番組に見える科学番組は,実はもっと悪影響がある番組なのかもしれません。科学に興味を持たせるという利点をもつ点があることは強調してもいいかもしれませんが,科学らしき味付けでデコレートしたものなら有害でしょう(もちろん面白ければすべてよしという要求があり,製作者サイドにすべて任せるのは無責任という議論があるのは理解しています)。

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