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Nov 17, 2007

XMRV

特に旬の話題というわけでもないのですが,備忘録をかねてウイルスの話をひとつ書きましょう。
Xenotropic MuLV-related virus(XMRV)というガンマウイルス属のレトロウイルスがウイルス研究者の間で注目されているそうです。

レトロウイルスというのは宿主(感染者)のゲノムに自分自身を組み込むタイプの感染をするウイルスです。これまでヒトに感染するレトロウイルスというと,HIV(エイズウイルス)やHTLV(ヒト成人白血病ウイルス)などのレンチウイルス属や,出血熱を引き起こすフィロウイルス属が知られています。

レトロウイルスが生殖細胞のゲノムに組み込まれてしまうと,次世代のヒトは生まれながらにしてレトロウイルスが組み込まれている状態になってしまいます。現時点で,ヒトに感染するレトロウイルスで生殖細胞に組み込まれるタイプのウイルスは知られていません。これは過去に霊長類が,こうしたタイプのウイルスに対する防御システムを発達させることに成功したためです。あるいは,こうしたウイルスに対する攻撃に生き残ったのが現在の霊長類とも言えるでしょう。

で,昔々そうした防御システムが構築される前に,ご先祖様にゲノムに刷り込まれてしまったレトロウイルスを内在性レトロウイルスといいます。ヒトゲノムはすでに解析されましたがこの全ゲノムの2割ほどは内在性レトロウイルスといいますから,それはそれはご先祖様の病気との戦いは大変だったようです。

さてマウスやサルからヒトへ,といった異種間で内在性レトロウイルスが感染しうるかどうかというのは,たとえば,動物由来製品を人工臓器や再生医療用の材料に利用するときや,もっとダイレクトにたとえばブタの臓器をヒトに移植したりするとき(異種移植)に大きな問題となってきます。これには百家争鳴の議論があるわけですが,ごく単純にまとめると,ひとまずのところ現在では,異種には細胞培養などでは感染しうる,ただし実際の生体では感染しうるという証拠は見られない,これは先に述べたような防御システムのおかげではないか,といったところです。要するに,猫や犬を飼っていても,猫や犬などの一般的な家畜動物の内在性レトロウイルスには感染しないということです。そうした戦いはすでにご先祖様が十分に終えているのです。

さて,前置きが長くなりましたがXRMVというのは,マウスの内在性レトロウイルスにそっくりの配列をもっていました。言い換えると,あらゆるマウスが持っているウイルス(MuLV)はこの配列によく似ています。

Xenotropicというのは異種指向性という意味で,マウスからマウスにはかからないが,マウスからヒトなどの異種には感染するという意味です。ただし,やはりこれも実験室レベルの話で,実際には防御システムのおかげでヒトには感染しないようです。

ところが,最近の論文で発表されたのは,前立腺がんにかかった人の4割がこのウイルスにかかっていたという証拠です。さらに詳しく調べると,この感染者はレトロウイルスに感染した際の防御システムのひとつのRNAse Lという酵素に変異が入っている人ということがわかりました。

がんがウイルスが原因というのは目新しい話ではありません。肝がん(C肝ウイルス)や,子宮頸がん(パピローマウイルス),成人T白血病(HTLV)など多くの例が知られています。がんの1割か2割はウイルスが原因とも考えられています。

つまり,遺伝的にある種の変異をもつ人は,本来人がかからないはずの,異種動物の内在性レトロウイルスに感染し,それががんを誘発するというストーリーがうかびあがります。

こうしたウイルスは,これまでヒトとの接触がほとんどなかった(ただしマウスとは接触のあった)動物が宿主かもしれません。未知のウイルスでしたので,当然ながら従来の検査にはひっかかってきません。献血や,血液製剤などに紛れ込んでしまうリスクが非常に高いといえるでしょう。しかもウイルスが原因の癌化は,感染から数年,数十年のスパンで進行していき,癌がわかるころには感染が蔓延している可能性もあるという,なかなか恐ろしげな話です。

今後もこうしたウイルスが発見されていくでしょうし,遺伝的欠損すべてに対してチェックをするのも不可能です。ですが,わかってしまったXMRVのようなウイルスはやはり献血などの公衆衛生に大きく影響を与える可能性のあるウイルスは,即座に対応をとるべきじゃないかと思うわけです。

#ウイルス専門家じゃないので,直しますので間違っている記述あればご指摘を。

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