Jul 17, 2008

アオサ

まずはこのリンク先の写真をご覧いただくとして。

北京五輪セーリング会場、藻を「一掃」?100万トン以上除去

【7月16日 AFP】(一部訂正)中国・山東(Shandong)省青島(Qingdao)にある北京五輪セーリング競技の会場で藻類が大量発生していた問題で、同国の国営新華社通信(Xinhua)は15日、藻類がすべて除去されたと報じた。除去された藻類は100万トン以上に上るという。

いや何がすごいって,この藻,というよりは,ここをオリンピック会場にしてセーリングしようという中国がすごい。

この藻はおもに「アオサ」というやつで,日本でも沿岸の汚染が原因で時々大発生しています。といっても日本の大発生とはスケールが違います。中国ほど育ってしまってはさすがにどうにもこうにもならないと思いますが,日本ではやはりしっかり研究している人たちもいるもので,たとえばこの三河湾周辺の方々なんかは,嫌われ者のアオサを,あわよくば育ててまで,しっかりバイオマスのエネルギー源として利用してやろうという素晴らしい研究です。

非常に面白いレポートですが,これによるとアオサを回収するにはその増殖度合いによって人力から重機までさまざまな方法があるわけです。増殖度合いは,固着→付着→アマモなどに漂着→堆積→海岸に漂着→海岸に打ち上げ,というレベルに分けて考えることができるそうですが,中国のはどうみてもMAXレベルですね。この状態だと建設機械で片付けないといけないレベルだそうです。とてもじゃないですが,いくら中国といえ文字通り,人が海に入ってエッチラオッチラと人海戦術で除去できる量ではなさそうです。除去したといっても海底までは難しいでしょうから,数日もすれば元の木阿弥かとお察しします。

さらに問題なのは,除去した100万トンの藻の行く末でしょう。塩分を多く含みますし,汚染物の窒素,リンを多く含むのでなかなか簡単に燃やすわけにはいかないでしょう。炉が壊れてしまいそうですし,ヘタな温度だとダイオキシンも大発生しそうです。かといってほうっておけばおそらく硫化水素やらアミン化合物やらで,この季節だとあっという間に強烈な悪臭源になることは間違いありません。

かくなる上は埋め立てしかありません。100万トンというと単純に水と同じ体積と考えても,10mの深さに重ねれば300m四方。9割が水としてぎゅっと圧縮できても,100m四方の面積を占有しちゃうという恐ろしき事態です。


大きな地図で見る

なんか上空から見てみると,見るからに水が澱みそうな湾ですが・・・む,地図の沿岸部と航空写真の沿岸部が違うってのもブキミな地域ですね。確かに湾は埋め立てられていってるようです。有効活用されているのでしょうか・・・・。

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May 01, 2008

教科書も有害情報

硫化水素自殺、手法は「有害情報」=ネット書き込みで警察庁

 硫化水素自殺の多発を受け、警察庁は30日、インターネット上に書き込まれる自殺の手法を「有害情報」として取り扱うことを決め、全国の警察本部に通達を出すなどした。巻き添えで周囲の人が死傷する二次被害が続発しているため、傷害事件を招く危険な情報と認定。ネット接続業者やサイト管理者に書き込みの削除を求める。

 警察庁は、ネット情報のうち、児童ポルノや麻薬の広告など犯罪に当たるものを「違法情報」とし、違法でなくとも犯罪を誘引するものを「有害情報」と認定。該当する情報の選別と、警察庁への通報や業者への削除依頼を民間団体「インターネット・ホットラインセンター」に委託している。

 ネットにはこれまで、練炭の使用など自殺方法の書き込みは多数あったが、違法・有害情報とは認定されていなかった。硫化水素ガスの製造自体も違法ではないが、同ガスは自殺者本人だけでなく、救助者や近隣住民にも被害が及んでおり、製造方法の書き込みを有害情報として取り扱う。

 同センターは、該当する書き込みを見つけ次第、業者に削除を依頼する。強制力はないが、警察庁によると、依頼した有害情報の75%、違法情報は85%が削除されている。

 警察庁は既に、二次被害の防止を図るよう全国の警察本部に指示を出している。 (時事通信)

 硫化水素の発生方法は「有害情報」認定だそうで,中学校の教科書も有害図書入り確定ですね。高校入試の理科にも,おなじみの酸化還元反応のこの問題は出ませんね,なんせ有害情報ですから。

 酸化還元反応のもうひとつの雄,塩素ガスの発生もひと昔前に事故が相次いで,メーカー側が「まぜるな危険」の表示を出す契機になりました。今回も,メーカー側にもなんらかの表示の義務化が求められることになるかと思います。

・・・そんなわけで言いたかったのはネット規制は少し考えれば変な話に思えるってことです。ほとんどの人が硫化水素自殺をマスコミの報道で知ったでしょ?!

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Jul 08, 2007

クマゼミ初鳴日

毎年のことですが例によって備忘録。

今年のクマゼミの初鳴日@京都は7月6日でした。抜け殻はその前日にはじめて目にとまりました。ニイニイゼミもその日には鳴いているのに気づきましたが,初鳴日は不明。今年は遅めの印象です。

で,いくつかウェブサイトみてるとなかなか面白いページ発見。「クマゼミの発生(予測と実況)」。私の心の故郷長居公園でクマゼミの観測をしておられる大阪自然史博物館の学芸員のかたによる報告です。

このレポートで秀逸で独創的なのは,セミの発生レベルを騒音量(デシベル)で表現したという点。いやはやおみごと。過去に私は,セミの数を音量という値で数値化した例をほかに知りません。しかし,考えればどんな数値よりも大域的にセミの数を客観的に表現していると思います。

これは,朝6時過ぎから始まり10時ごろに最高潮を迎える,長居公園のクマゼミの大合唱を聞いたことがなければ想像しにくいかもしれません。個別のセミを聞き分けるというレベルではなくて,360度,四方八方からわんわんと響くエコーの中に埋まってしまうという感じ,下で普通の声で会話にならないといえば伝わるでしょうか。

このレポート,読めば読むほど興味深い記述があります。特に次の記述。

「なお、クマゼミの発生周期については、生育年数が8年のものが最も多くなった飼育実験結果(特別展にて紹介予定)とも深く関連していると考えられる」

私の知る限り,クマゼミの幼虫年齢をずばり書いていたものを見たことはありません。大昔に読んだ図鑑では,ニイニイ4年,アブラゼミ6年,クマゼミ5~6年とあったと思います。(アブラゼミはその後7年と結論づけられたようでです)。ってか,クマゼミ飼育実験では8年というデータを得たようですが,8年以外のものもいたというような書き方です。温度や,えさとなる樹木の栄養などの環境にもよるのでしょうか。飼育実験によって確かめたというのはすごい仕事ですよ。

というのもセミの飼育は非常に難しくて,何しろ卵を孵すのからむずかしい。あまり知られていませんが,セミは木に産卵するので,その卵をとってくるのが困難まずひとつ。あまりに難しいから,カゴのなかで自分で植えた木に産卵させようとしても,カゴの中で産卵するまで飼いつづけるのが困難ひとつ。卵は産卵した翌年の梅雨時に孵化するといわれています。気候も重要なようです。孵化した幼虫は地面の中から逃げないようにしないといけません。ところがコンクリートで固めるわけにはいかない,というのもえさは生きた木ですから。水がたまらない工夫がいります。さらにそこから何年間,一見ただの木を植えているだけの空間を,新たにセミが入ってこないようしっかりキープしないといけません。この気の遠くなる根気強い実験をやり遂げたわけですよ。まさにグッジョブ!!ブラボー!!!

貝とか魚ですと,定期的にサイズなどを観測して全個体における年齢構成(コホート)を調べるのが常套手段ですが,セミの幼虫は地中深くにいますので,こういう調査がしにくくて,生態学的な解析がほとんどされていなかったわけです。で,成虫数の年周期から推測する,という調査がやられているのですね。よく知られている例では,13年ゼミ,17年ゼミというわかりやすい発生周期のセミがいます。これは発生周期=幼虫年齢となりますが(幼虫年齢が26年や,34年あるいはそれ以上という可能性もありますが誰か否定はしているんでしょうか。。。ちなみにこれらのセミは同種で,幼虫年齢だけが違うらしいです。何が幼虫年齢を決定する要因なんでしょうね),他のセミでも似たようなパターンはないかと調査されています。で,振り出しに戻るわけですが,セミの個体数をなかなか定量的に表せなくて,この種の調査が難しかったわけです。

いやもう,大阪自然史博物館の「日本一のセミ展」に行くしかないですね,こんな実験結果が報告されているのだと。といいますかこの学芸員のかたと個人的にひざを交えて詳しく実験を聞きたいぐらいです。

備忘録だけのはずが,なぜかこんなに書き込んでしまった(笑)。。。。

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Apr 07, 2007

選挙

以前から,名前を街でがなりたてられた候補者には,決して一票を投じないと心に固く決めていますが,あいかわらずその手の(自称)選挙演説ばかりが横行して,選挙前になると気分が悪くなりますね。多くの人が同様に感じていると思うのですが・・・。とくに選挙日前日などの声を嗄らして名前を叫ばないと損とでもいわんばかりの中身のない演説の大量生産にはウンザリします。

いいかげん,選挙活動にインターネットを使わせるべきでは。

誰が公職選挙法でそのくだりを決めたのか知りませんが,時間の無駄,金の無駄,労力の無駄,エネルギーの無駄。100回名前を聞かされるよりは,1回じっくりと主義主張をウェブで読ませてもらえればそれで十分。投票者も被投票者もお互い納得ずくで選挙に臨むことができるでしょう。金のかからない選挙を目指すと主張する候補者なら真っ先にこれを論点にあげてもらえればよろしいでしょう。環境問題に関心のある候補者も,選挙カーでかけずりまわらずに済むので論点にしてもらればよろしい。公職選挙法のインターネット解禁に反対する人々は,よほどこれらの無駄をなくすのが厭とみえます。ひとことでいうと,ここにも利権があるのでしょう。

もっとも街で街頭演説をするなら,名前を一切声に出してはいけないという規則にしてもらえるなら,インターネット禁止でも我慢できそうです。ポスターやのぼり,車に候補者の名前を書くのはよしとしておけば,本当に気になる演説なら直接顔をみて名前を確認するでしょう。逆に中身のない演説をしている候補者なら,わざわざ名前を確認することはありません(投票しないでおくために名前を確認するのもいいかもしれません)。

・・・要は,庶民がエラいセンセイを選ぶのは名前だけを知っていれば十分,議論はセンセイに任せておけ,という時代はとうの昔に過ぎ去った,ということです。中身のないスピーチしかできないお山の大将にはお引取り願い,インターネット反対に固執している人間こそ真っ先に入れ替えていけば,平均的にみれば健全で公平かつ今の世の中の要求に応じた対応ができる人選が可能となるでしょう。まあ遅かれ早かれ世の中はそう動くでしょうし,若い候補者をみればとくにそう思います。昔と比べればずいぶん状況は変わったな,とも思います。決して悪くはなっていません。

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Feb 25, 2007

骨髄多能性幹細胞は捏造だったのか

どうしても触れておきたい記事。またかよ,という感じですが,また捏造疑惑です。

万能細胞の論文に「重大不備」 02年ネイチャー誌掲載(朝日新聞2/25)

 ネズミの骨髄の幹細胞から、多くの臓器になりえる「万能細胞」を作り出した、とする02年6月の米ミネソタ大の研究者の論文について、「重大な不備」があるとの結論を同大がまとめた。AP通信が23日、報じた。

論文は、キャサリン・バーファイリー博士らが執筆し、英科学誌ネイチャーに掲載された。ネズミから取り出した幹細胞が、脳、心臓、肺、肝臓などの細胞に育つ能力があることが確認できたとしていた。

 しかし、同大の専門家委員会は、育った細胞を確認する過程に問題があり、そのデータに基づく論文の解釈は正しくない可能性があるとした。ただし、捏造(ねつぞう)ではなくミスだとしている。

より詳しい顛末のソースも,英語ですが,載せておきます。
Adult Stem Cell Study Flawed
Flawed stem cell data withdrawn

 MAPC(多能性成人前駆細胞)の存在は,発表以来相当騒がれましたが,その存在の確からしさについては議論となっていました。私も,このMAPCの検出を彼らの詳しいプロトコールも参照しながらこころみたことがありますが(骨髄ではなく臍帯血ですが),何度も試してもそれらしき多能性の細胞は出ませんでした。彼らは,疑い深い研究者を呼んで,MAPC培養トレーニングなども主宰していたようですが,血清ロットの問題だとか,作業者のテクニック上の問題だ,出現する確率がおそろしく低い,などといっているうちに,いつの間にか「MAPC」は難しい,という大方のコンセンサスが出来上がりました。彼らの提唱する「MAPC」という名称が,彼らのグループ以外に浸透しなかったのはやはり,彼らと同じ方法によって誘導できたグループがほとんどなかったからです。医療やビジネスとしても手を挙げるところがなかったのも同様で,百発百中でなかったためです。

 この論文が写真の取り違えのようないわゆる「ミス」でなく,捏造だったとしたら(そういえば,韓国のESグループの捏造のときも,最初は写真の取り違えのレベルの話でした),各国の研究者は大きな回り道をさせられたことになります。たとえば,MAPCの解析をしている研究者も国内にもいますが,一体彼らの調べていたものの正体はほんとうは何だったのかということになります。それ以外にも,MSC(間葉系幹細胞)やEPC(血管内皮前駆細胞)といった他の組織幹細胞との関係だとか,この論文を足がかりに書かれた論文の論理構築などにも影響が少なくないと思います。

 この問題は共同通信や朝日新聞がとりあげたことで国内でもますます注目される可能性があります。再生医療は眉唾ばかりだという印象になってしまっては,医療応用の面でも大きなマイナスになります。まずはどこまでが真実なのか,見極める必要がありますし,著者らは周囲の疑問に答える必要があるでしょう。

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Feb 19, 2007

ハインリヒの法則

事故に関する有名な統計的観察に,「ハインリヒの法則」というのがあります。1件の重大事故の影には,29件の軽微な事故と,300件の軽微なヒヤリが隠れている,というものです。技術者なら,品質管理上,ヒヤリ・ハットという言葉で,常に心にとどめておかなければいけない概念です。

出産時に命の危険、年間2300人の妊婦が遭遇

出産時の大量出血などで母体に緊急治療が必要なケースが少なくとも年間2300件以上あり、これに基づく推計で出産の250件に1件の割合に上ることが、日本産科婦人科学会周産期委員会(委員長・岡村州博東北大教授)の調査で判明した。
 妊産婦死亡については国の統計で10万人に6人とまれなことが知られていたが、生命の危険にさらされる妊産婦が多数に及ぶことが初めて明確に示された。
 調査は昨年、全国の同学会卒後研修指導施設と救命救急センターの計998施設に対して実施。2004年に出産した妊婦で、妊娠出産に伴い、重い意識障害や多臓器不全、脳出血、子宮破裂、肺そくせん、2000cc以上の大量出血など、生命に危険があると判断した数と症状についてアンケートした。
 335施設(回答率33・6%)からの回答を集計すると、妊産婦数は12万4595人で、このうち生命に危険があったのは2325人。回答施設には重症患者が集まる大規模施設が多く、20人が出産時の大量出血、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)後の頭蓋(ずがい)内出血などで亡くなっていた。
 この結果を、施設規模などを調整しながら、全国の出産数と妊産婦死亡数に当てはめると、高度な救命措置が必要な妊産婦は、推計で年間約4500人、約250人に1人の割合で発生していることになる。
(2007年2月17日14時35分 読売新聞)

出産に関してもこの法則をあてはめると,10万人に6人の死亡率という国の統計をもとに考えるなら,10万人に170人(570人に1人)の,死亡には至らない事故と,10万人に1800人(55人に1人)のあやうく被害を招きかねない状態が隠れていると考えられます。

命の危険をともなう事故は250人に1人起きているという記事の調査結果はまさにこの法則そのものといえます(余談ですが,こういう観測的事実を取り扱うときは,エンジニアなら,250人と570人はオーダー的にほぼ同じと考えます)。およそ50人に1人の,ヒヤリがそのうしろに隠れているかと思うと,なかなかぞっとする話でもあります。

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Feb 02, 2007

番組捏造と教育

あるある大事典での捏造の話ですが,捏造の事実はその責任まで,しっかり追及してほしいところです。それはともかく,結論ありきでデータを作っていくというやり方がテレビ番組の根幹にある以上,同様の問題は今後も出るでしょう。このやり方はサイエンスではなく,サイエンスフィクションです。残念ながらこうしたやり方を,科学的な思考方法だと勘違いしている人が多い(理系の学生にも)のもまた事実です。そういう点で,教育的に良くないと考えることもできると思います。

放映を見て何も考えずになるほどと思ってしまう人が多いのもまた不思議なところです。これに限らず,例えばコラーゲンを飲むだけで肌の張りがよくなるとか,アミノ酸でダイエットできるとか,健康食品系には科学的根拠の不明なわけのわからない情報はたくさんあります。ちょっと考えれば,どこにでもある成分だったり,体に入ったら分解されると気付くはずです。ほかにも風邪薬に入っている有効成分のタンパク質のリゾチームなんかも,よく考えると不思議です。鼻水にリゾチームが含まれていて免疫に関係しているという部分はいいとしても,それを経口で体に入れてもそのまま効くわけありません。

科学の本質は批判的に物事をみることにありますが,テレビ番組の展開は視聴者に考える暇を与えないような勢いで構成するのが一般的のようです。バラエティ番組などは親が子供に見せたくない番組にあがることが多いようですが,一見まともな番組に見える科学番組は,実はもっと悪影響がある番組なのかもしれません。科学に興味を持たせるという利点をもつ点があることは強調してもいいかもしれませんが,科学らしき味付けでデコレートしたものなら有害でしょう(もちろん面白ければすべてよしという要求があり,製作者サイドにすべて任せるのは無責任という議論があるのは理解しています)。

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Dec 23, 2006

ノロウイルスの風評被害

この冬はノロウイルス(NV)が猛威を振るっています。私の家族や周辺にもこの冬に感染した人が4~5人,ノロと確定はしていないけれどもそれらしき症状という人はさらに数名います。私も牡蠣を食べてやられた経験があり,この苦しみは十分わかります。昔のウェブ日記をみると4年前の暮れのことでした。点滴うって,痛み止めもうちました。下痢はあまりなく,吐き気,熱,腹痛がひどかったです。その後さすがに牡蠣は怖くて食べられなくて控えていたのですが,今年はついにそのトラウマを克服し,何回か食べています。4年もたたないとつらさを忘れられないほどひどい症状ですので,未経験の方はくれぐれもご用心を・・・。

さて牡蠣の業者にしてみれば現状のNV大発生は死活問題です。出荷量や価格が低下しているのは風評被害だという報道が出ています。
-風評被害、カキの出荷激減 ノロウイルス流行(2006/12/20,神戸新聞)
-ノロウイルスで風評被害、カキの出荷見送り(2006/12/21,四国新聞)

風評被害というからには,根拠のない噂ということでしょうが,こればかりは可哀相ですが風評とはいえないと思います。一般消費者としては,牡蠣は相当に感染リスクの高い食材だからです。

何個に1個の牡蠣がウイルス陽性のいわゆる「アタリ」(というかハズレ)なのかについては目下の関心事だと思うのですが,それこそ風評被害を気にしてかなかなかこういう情報は報道されません。

私は2年ほど前には,国立感染症研究所のデータを引用した記事を書きました。その後,さらに研究は進み,2005年に出された最新の報告でもほぼ同じような結果でした。ここから引用すると,852パックの牡蠣のうちNV陽性の牡蠣は84個。つまり10パックに1つが大アタリなのですね。

要はこれだけの危険食材であるとの認識をもって,出荷者も調理者も取り扱うべきです。すなわち,安全な食材であるとアピール,ウイルスの除去処理,安全な調理方法の普及などに努めなくてはいけないと思います。たとえば定期的に抜き取りチェックしての品質管理は有効でしょうし,前の記事で書いた新しい消毒技術の導入も有効な手段になるかもしれません。安全な調理方法をパッケージに印刷するなどの努力も今後は必要になってくるでしょう。それが食品を取り扱う以上の義務かと思いますし,社会はそれを要求しています。

厚生労働省とか自治体が「牡蠣業者の風評被害対策に経済支援に乗り出す」などと何も考えていない展開にだけはならないで欲しいですね。公的な組織がやるべきなのは地域の汚染状況などを検査して公表することと思います。公益確保という視点で考えるべきでしょう。

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Dec 17, 2006

ヒト腎臓再生:ラット体内で成功 世界初、幹細胞から

ひさしぶりに再生医療のトピックを拾ってみます。

ヒト腎臓再生:ラット体内で成功 世界初、幹細胞から

東京慈恵会医科大と自治医大の研究チームが、ラットの胎児の体内にヒトの骨髄液由来の幹細胞を埋め込み、ヒトの腎臓の一部(糸球体と尿細管)を作ることに世界で初めて成功した。その組織を別のラットの腹部に移植したところ、移植を受けたラットの血管が入り込み、通常のラットの腎臓の10分の1の大きさまで成長した。重い腎臓病に苦しむ患者が多い中、患者自身の細胞を使って人工的に腎臓を再生し、移植後も機能させる可能性につながる成果として注目される。(毎日新聞 2006年12月10日)

サイエンスとしては非常に面白いですし,将来性のある研究でしょう。ですが,記事にあるような医療応用としては,残念ながら期待どころかブレーキがかかりかねない研究といえます。

造血幹細胞の増幅や,ES細胞の未分化維持にマウスのフィーダー細胞を用いるだけでも,「異種移植」扱いとなって,培養した細胞は臨床応用できません。ましてやラット体内で育てた細胞となればなおさら慎重になる必要があります。

ヒトへ応用するには,やはり異種動物由来の細胞を使用しないことが最低限必要です。したがって,この技術が医療として陽の目を見るには,ヒトの体内で,組織を作り上げることができないといけません。

もとの論文に書いてあるように,彼らの研究の目的は,ドナー不足解消のために,自家移植,すなわち移植を望む本人の骨髄から採取した幹細胞を,腎臓組織に作り上げ,本人に戻すというものです。ですので,腎臓組織に必要な再構築は患者本人になります。そうでなければ代理母どころか,培養容器となるべき第一のレシピエントが必要となり,倫理的に重大な問題が発生するでしょう。

このアプローチでは(1)患者から骨髄採取→(2)腹膜下に移植→(3)出来上がった組織を腎臓へ移植,の3ステップが必要となります。

間葉系幹細胞は,その未分化性ゆえ癌化も心配されていますし,目的の組織以外の組織へ分化を制御させることもなかなか難しいですので,ステップ2での安全性を担保するのはなかなか大変といえます。したがって,この方法が腎臓移植に替わる医療となりうるのかといわれれば,残念ながら5年10年で可能とはやはり思えません。

とはいうものの,最初に書いたように,発生のメカニズム解析という部分では非常に面白いですし,発生研究のブレイクスルーになるかもしれません。

私の実感から言っても,組織の再構築は生体内でおこなう以上に効率よい場はありませんし,似たアイデアで再生できる他の組織もあるようです。大網に移植して,腎組織近くでは似た組織が再生するなら,なんらかの遠隔性に作用する液性因子の影響が考えられますので,そのあたりを切り口にして解析すれば,体外での3次元での組織構築という,再生医学者が現在夢にまでみる技術へ近づけるでしょう。移植したドナー細胞と,発生の場となるレシピエント細胞の間の細胞間相互作用も興味あるところです。実験結果からは,ヒトとラットの発生の間にはかなりの共通の因子も考えられそうです。

以下余談。医療技術として可能である,とかわざわざ喧伝しなくても,基礎として,いい研究なのは間違いないのですから,地道にすすめてほしいものです。神経再生の話なんかも5,6年前の総説を見ると,「2~3年で幹細胞を用いてヒトへ臨床応用可能」とか言っていました。現状では,まだ移植に足りるほど満足に分化誘導できません。そんな話はいくらでもあります。競争資金の獲得に,研究のPRが必要なのも理解していますが,あまり狼少年みたいにできないことを大げさに言っていては,再生医療全体がコケちゃうのではないでしょうか。
・・・え,もうコケてる!?つるかめつるかめ。

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Nov 05, 2006

臓器移植

病気で摘出された腎臓を移植した医師が問題となってます。医師は患者が助かるために為すべきことをしたと述べ,マスコミ側は,規則にのっとって移植医療がなされるべきだと述べています。事件性は,金品の授受,つまり臓器売買という点で,これはすでに立件されています。そこで一連のマスコミ報道では倫理面を大きく問題視しているようです。

しかし倫理面での議論は,立っている位置が違うのですから,噛み合わないのは当然です。医師は目の前でレシピエントを救うことが使命であり,それを全うしないことは医師倫理に反します。一方のマスコミは,医師の立場でないことは明白ですが,どうもどの立場から倫理面を議論したいのかがよくわかりません。話の流れを見ても,当事者の声は聞こえず,報道にどんな意図があるのか,第三者にはよく見えてきません。

今回の場合,レシピエントとドナーのそれぞれの同意を得て,かつ従うべき規則が存在しないのであれば,移植医は何の咎めを受けることもありません。むしろ適切な治療を行わなければそのこと自体が医師法に違反するでしょう。この場合,移植に関する適切な規制がないことが問題視されるべきで,非難の声は医師ではなく,法整備する側に向けられ,さらに逸脱した場合の罰則を強化する方向へ議論はすすめられるべきでしょう。

移植医療は,医療技術としては確かに免疫抑制剤の発達でかなり完成度の高いものとなりましたが,根本的には,他人からの提供がないと成り立たない医療です。したがってドナーの人権が何よりもまず重要です。日本では,移植件数は横ばいです。その内訳は血縁者間の生体移植が諸外国に比べ非常に高いという特殊な状況です。ドナーが不足しているのです。となると,ドナーを求め日本人が中国などの外国で移植を受けに行くのも当然です。渡航先のドナーの人権は近いうちにいずれ大きな問題となるでしょう。ここでも,倫理で渡航を縛るわけにはいかないので,早急に法整備が必要と思われます。現状では,国内で法整備できていないため,渡航しての臓器移植はむしろお目こぼしに近いのではないでしょうか。

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