Feb 25, 2007

骨髄多能性幹細胞は捏造だったのか

どうしても触れておきたい記事。またかよ,という感じですが,また捏造疑惑です。

万能細胞の論文に「重大不備」 02年ネイチャー誌掲載(朝日新聞2/25)

 ネズミの骨髄の幹細胞から、多くの臓器になりえる「万能細胞」を作り出した、とする02年6月の米ミネソタ大の研究者の論文について、「重大な不備」があるとの結論を同大がまとめた。AP通信が23日、報じた。

論文は、キャサリン・バーファイリー博士らが執筆し、英科学誌ネイチャーに掲載された。ネズミから取り出した幹細胞が、脳、心臓、肺、肝臓などの細胞に育つ能力があることが確認できたとしていた。

 しかし、同大の専門家委員会は、育った細胞を確認する過程に問題があり、そのデータに基づく論文の解釈は正しくない可能性があるとした。ただし、捏造(ねつぞう)ではなくミスだとしている。

より詳しい顛末のソースも,英語ですが,載せておきます。
Adult Stem Cell Study Flawed
Flawed stem cell data withdrawn

 MAPC(多能性成人前駆細胞)の存在は,発表以来相当騒がれましたが,その存在の確からしさについては議論となっていました。私も,このMAPCの検出を彼らの詳しいプロトコールも参照しながらこころみたことがありますが(骨髄ではなく臍帯血ですが),何度も試してもそれらしき多能性の細胞は出ませんでした。彼らは,疑い深い研究者を呼んで,MAPC培養トレーニングなども主宰していたようですが,血清ロットの問題だとか,作業者のテクニック上の問題だ,出現する確率がおそろしく低い,などといっているうちに,いつの間にか「MAPC」は難しい,という大方のコンセンサスが出来上がりました。彼らの提唱する「MAPC」という名称が,彼らのグループ以外に浸透しなかったのはやはり,彼らと同じ方法によって誘導できたグループがほとんどなかったからです。医療やビジネスとしても手を挙げるところがなかったのも同様で,百発百中でなかったためです。

 この論文が写真の取り違えのようないわゆる「ミス」でなく,捏造だったとしたら(そういえば,韓国のESグループの捏造のときも,最初は写真の取り違えのレベルの話でした),各国の研究者は大きな回り道をさせられたことになります。たとえば,MAPCの解析をしている研究者も国内にもいますが,一体彼らの調べていたものの正体はほんとうは何だったのかということになります。それ以外にも,MSC(間葉系幹細胞)やEPC(血管内皮前駆細胞)といった他の組織幹細胞との関係だとか,この論文を足がかりに書かれた論文の論理構築などにも影響が少なくないと思います。

 この問題は共同通信や朝日新聞がとりあげたことで国内でもますます注目される可能性があります。再生医療は眉唾ばかりだという印象になってしまっては,医療応用の面でも大きなマイナスになります。まずはどこまでが真実なのか,見極める必要がありますし,著者らは周囲の疑問に答える必要があるでしょう。

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Dec 23, 2006

ノロウイルスの風評被害

この冬はノロウイルス(NV)が猛威を振るっています。私の家族や周辺にもこの冬に感染した人が4~5人,ノロと確定はしていないけれどもそれらしき症状という人はさらに数名います。私も牡蠣を食べてやられた経験があり,この苦しみは十分わかります。昔のウェブ日記をみると4年前の暮れのことでした。点滴うって,痛み止めもうちました。下痢はあまりなく,吐き気,熱,腹痛がひどかったです。その後さすがに牡蠣は怖くて食べられなくて控えていたのですが,今年はついにそのトラウマを克服し,何回か食べています。4年もたたないとつらさを忘れられないほどひどい症状ですので,未経験の方はくれぐれもご用心を・・・。

さて牡蠣の業者にしてみれば現状のNV大発生は死活問題です。出荷量や価格が低下しているのは風評被害だという報道が出ています。
-風評被害、カキの出荷激減 ノロウイルス流行(2006/12/20,神戸新聞)
-ノロウイルスで風評被害、カキの出荷見送り(2006/12/21,四国新聞)

風評被害というからには,根拠のない噂ということでしょうが,こればかりは可哀相ですが風評とはいえないと思います。一般消費者としては,牡蠣は相当に感染リスクの高い食材だからです。

何個に1個の牡蠣がウイルス陽性のいわゆる「アタリ」(というかハズレ)なのかについては目下の関心事だと思うのですが,それこそ風評被害を気にしてかなかなかこういう情報は報道されません。

私は2年ほど前には,国立感染症研究所のデータを引用した記事を書きました。その後,さらに研究は進み,2005年に出された最新の報告でもほぼ同じような結果でした。ここから引用すると,852パックの牡蠣のうちNV陽性の牡蠣は84個。つまり10パックに1つが大アタリなのですね。

要はこれだけの危険食材であるとの認識をもって,出荷者も調理者も取り扱うべきです。すなわち,安全な食材であるとアピール,ウイルスの除去処理,安全な調理方法の普及などに努めなくてはいけないと思います。たとえば定期的に抜き取りチェックしての品質管理は有効でしょうし,前の記事で書いた新しい消毒技術の導入も有効な手段になるかもしれません。安全な調理方法をパッケージに印刷するなどの努力も今後は必要になってくるでしょう。それが食品を取り扱う以上の義務かと思いますし,社会はそれを要求しています。

厚生労働省とか自治体が「牡蠣業者の風評被害対策に経済支援に乗り出す」などと何も考えていない展開にだけはならないで欲しいですね。公的な組織がやるべきなのは地域の汚染状況などを検査して公表することと思います。公益確保という視点で考えるべきでしょう。

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Dec 17, 2006

ヒト腎臓再生:ラット体内で成功 世界初、幹細胞から

ひさしぶりに再生医療のトピックを拾ってみます。

ヒト腎臓再生:ラット体内で成功 世界初、幹細胞から

東京慈恵会医科大と自治医大の研究チームが、ラットの胎児の体内にヒトの骨髄液由来の幹細胞を埋め込み、ヒトの腎臓の一部(糸球体と尿細管)を作ることに世界で初めて成功した。その組織を別のラットの腹部に移植したところ、移植を受けたラットの血管が入り込み、通常のラットの腎臓の10分の1の大きさまで成長した。重い腎臓病に苦しむ患者が多い中、患者自身の細胞を使って人工的に腎臓を再生し、移植後も機能させる可能性につながる成果として注目される。(毎日新聞 2006年12月10日)

サイエンスとしては非常に面白いですし,将来性のある研究でしょう。ですが,記事にあるような医療応用としては,残念ながら期待どころかブレーキがかかりかねない研究といえます。

造血幹細胞の増幅や,ES細胞の未分化維持にマウスのフィーダー細胞を用いるだけでも,「異種移植」扱いとなって,培養した細胞は臨床応用できません。ましてやラット体内で育てた細胞となればなおさら慎重になる必要があります。

ヒトへ応用するには,やはり異種動物由来の細胞を使用しないことが最低限必要です。したがって,この技術が医療として陽の目を見るには,ヒトの体内で,組織を作り上げることができないといけません。

もとの論文に書いてあるように,彼らの研究の目的は,ドナー不足解消のために,自家移植,すなわち移植を望む本人の骨髄から採取した幹細胞を,腎臓組織に作り上げ,本人に戻すというものです。ですので,腎臓組織に必要な再構築は患者本人になります。そうでなければ代理母どころか,培養容器となるべき第一のレシピエントが必要となり,倫理的に重大な問題が発生するでしょう。

このアプローチでは(1)患者から骨髄採取→(2)腹膜下に移植→(3)出来上がった組織を腎臓へ移植,の3ステップが必要となります。

間葉系幹細胞は,その未分化性ゆえ癌化も心配されていますし,目的の組織以外の組織へ分化を制御させることもなかなか難しいですので,ステップ2での安全性を担保するのはなかなか大変といえます。したがって,この方法が腎臓移植に替わる医療となりうるのかといわれれば,残念ながら5年10年で可能とはやはり思えません。

とはいうものの,最初に書いたように,発生のメカニズム解析という部分では非常に面白いですし,発生研究のブレイクスルーになるかもしれません。

私の実感から言っても,組織の再構築は生体内でおこなう以上に効率よい場はありませんし,似たアイデアで再生できる他の組織もあるようです。大網に移植して,腎組織近くでは似た組織が再生するなら,なんらかの遠隔性に作用する液性因子の影響が考えられますので,そのあたりを切り口にして解析すれば,体外での3次元での組織構築という,再生医学者が現在夢にまでみる技術へ近づけるでしょう。移植したドナー細胞と,発生の場となるレシピエント細胞の間の細胞間相互作用も興味あるところです。実験結果からは,ヒトとラットの発生の間にはかなりの共通の因子も考えられそうです。

以下余談。医療技術として可能である,とかわざわざ喧伝しなくても,基礎として,いい研究なのは間違いないのですから,地道にすすめてほしいものです。神経再生の話なんかも5,6年前の総説を見ると,「2~3年で幹細胞を用いてヒトへ臨床応用可能」とか言っていました。現状では,まだ移植に足りるほど満足に分化誘導できません。そんな話はいくらでもあります。競争資金の獲得に,研究のPRが必要なのも理解していますが,あまり狼少年みたいにできないことを大げさに言っていては,再生医療全体がコケちゃうのではないでしょうか。
・・・え,もうコケてる!?つるかめつるかめ。

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Oct 02, 2006

2006年ノーベル賞

今年のノーベル医学生理学賞は,RNAiの発見で,FireとMelloに与えられたそうです。RNAiとは,短いRNA断片が,遺伝子発現を抑制するという現象です。この2名を筆頭とラストオーサーとする論文が1998年の2月に発表されてから,まだ8年と少し。恐るべきスピード受賞です。

当初はC.elegansという全身の細胞数が1000個ほどの小さな生物に見出された現象で,哺乳類ではおこらないと言われておりました。再現性がなかなかとれなかった現象で,発見当初はかなり懐疑的な見方をされていたのですが,この数年で,その応用が爆発的に延びています。

この現象,現象としてはかなりよく理解されており,医薬品への応用もかなり研究されています。が,そのメカニズムは,というと未だ霧の中という状況ではないでしょうか。一昨年のノーベル賞は比較的基礎的な分野に授与されておりましたが,去年のピロリ菌や,その前のまえのMRIなど,ここ最近の流れとしては,技術的な応用に近いもの,という感じをうけています。RNAiはまさに技術そのものずばりです。

応用とは言いましたが,何に使うのか,お昼の話題に事欠かない程度にごく簡単に説明しましょう。

ゲノム解析が済んだ現在では,各ゲノムの機能解析が最重要課題です。遺伝子機能の解析方法は大きくわけて,遺伝子導入と遺伝子ノックダウンの2種類あります。どちらもマウスなど実験動物の遺伝子に,新たな遺伝情報を書き加えるか,削除するかして,表現型の変化を観察し,機能を推定するわけです。ところが,実験動物を使うのは,煩雑で時間がかかるし,結果にばらつきがでるし,とにかく面倒なわけです。なので,同様の実験を,動物実験ではなく,実験台上で培養細胞を使ってやりたいとみんな思っていたのです。ところが,培養細胞への遺伝子導入(書き加えるほう)は,種々のベクターをつかえば比較的簡単に実現できるのですが,ノックダウン(削除するほう)は難しかったという経緯がありました。

今回の2名が発見したのは,ぱらぱらとその遺伝子の短い断片を振り掛けると,なぜだかその遺伝子の発現がストップする,という摩訶不思議な現象でした。この発見後,多くの研究者の検証を重ね,培養細胞の特定の遺伝子をノックダウンするというのは,簡単にできるようになったのです。

そういう時代のニーズにもがっちりはまったというのも幸運なところですし,はじめから哺乳類でやっていたえわけではなかったのも,発見する上で幸運でした。が,なにより一番幸運だと私が思うのは,彼らがまだ若いということでしょう(まだ二人とも50歳になっていません)。

ところで余談ですが(いや最初から余談か。),日本のRNAiの研究はというと,少し前までトップ独走中だった東大の多比良研の仕事が,実は論文捏造だったという最低最悪の仕事ぶりが発覚したばかりで,出遅れています。まじめにやっている日本の研究グループにとっては非常に残念なことです。

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Aug 24, 2006

受精卵壊さずES細胞作成

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060824-00000011-jij-soci

アドバンストセルテクノロジー社の開発した技術で,IVF(体外受精)においてPGD(着床前診断)をおこなうために細胞をとってきますが,そのサンプリングした細胞をもちいてES細胞をつくったという報告のようです。(元ソース

生命の萌芽を壊さないで済むために倫理問題がなくなるという書き方をしています。しかしながら私としては疑問に思います。

現実の運用を考えると,この技術を用いようが用いまいが,実際にヒトESを作るときはIVFで余った受精卵を使用するのでしょう。ではES用に一部をサンプリングした受精卵を胎内に戻すのか,というとおそらくそうはならない筈。敢えて「生命の萌芽を壊さないためだけに」わざわざES用にサンプリングした受精卵を妊娠に用いる必要はなく,通常は傷をつけていない別の受精卵を用いることになるのではないでしょうか。

また,仮にサンプリングを施した受精卵で妊娠したとして,その子供には自分の望まぬところでES細胞を作られているわけです。自分とまったく同じクローンを生み出す可能性があり,無限に増える細胞を,生まれながらにして作製されているというのは,新たな倫理問題を巻き起こしかねません。結果として,この技術では,現在問題となっている倫理的課題を解決できるとはどうにも思えないのです。

問題を完全に解決する可能性のあるリプログラミング技術がマウスですでに掲示されているわけで,今回の発表はヒトでリプログラミングが実現されるまでの間,研究者が倫理を犯していると後ろ指をさされないですむための言い訳を与える程度の利用価値はあるかもしれませんが,本質的な進歩はない思いました。

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Aug 17, 2006

ガン幹細胞

今週のNatureはいくつか興味をひく論文がありました。そのうちのひとつですが,ガン幹細胞の由来を調べた論文の話を書きましょう。

幹細胞自己複製能多分化能をあわせもつ細胞ですが,これが細胞分裂時にある条件下で,前駆細胞と呼ばれるステージにうつります。前駆細胞は多分化能はもっていますが自己複製能は失っています。その後,前駆細胞は,各種の分化細胞へと成熟していきます。

血液細胞ではこれらの過程がかなり詳しくわかってきています。この論文の筆者らは,正常の造血前駆細胞,すなわち自己複製能をもたない細胞において,もともとの造血幹細胞が持つ自己複製能に関する遺伝子の活動がオンになると,造血前駆細胞がさながら幹細胞のようにどんどん増殖し,ガンになるということを見出しました。

白血病では,ガン細胞を生み出すガン幹細胞が存在することがすでに知られていますが,彼らの研究はこのガン幹細胞がどこから来たかを明らかにしました。つまり,ガン幹細胞とは,増殖スイッチの入った前駆細胞,というわけです。増殖スイッチがどういった経路で入るのかを明らかにすれば,ガンの原因解明につながりますし,スイッチを切る方法を考えれば治療薬の開発につながります。

ところで前に紹介した誘導多能性幹細胞では,未分化維持に遺伝子をいくつか同時に導入すると,線維芽細胞が多能性を取り戻す,というものでした。ぱっと見た目にはかなり似た構図で,ここから研究の方向性がひとつ見えます。つまりどういう遺伝子の組み合わせが細胞の増殖や分化などの運命を決定づけているのか探るという方向性です。単独の遺伝子の発現を網羅的に評価する系は簡単ですが,その組み合わせとなるとなかなか難しいでしょう。

もうひとつ応用面で重要なことは,下手に多能性かつ増殖性の幹細胞を誘導すると,生体ではガンを引き起こす可能性があるということです。たとえば誘導多能性幹細胞もマウスに移植するとさまざまな組織が混在する奇形腫(テラトーマ)が発生します(ちなみに,テラトーマの発生は,細胞が多能性を持っていることを証明するための必須の手段と現在では考えられています)。また骨や脂肪細胞のもとになる間葉系幹細胞も,その再生能力には期待されていますが,一方ではガン化もずいぶん懸念されています。

ガン化を防ぐ手立てをうまく考えないと,培養した幹細胞を利用した治療の実現は難しそうです。そうして考えると,再生医療の研究は,本来期待されている医療分野ではなく,ガン治療という分野で花開くかもしれません。

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Aug 12, 2006

皮膚から「万能細胞」

京大再生研、皮膚から「万能細胞」作製に成功

 皮膚の細胞から、様々な臓器や組織に育つ能力を秘めた新たな“万能細胞”を作製することに、京都大再生医科学研究所が、マウスの実験で世界で初めて成功した。
 胚(はい)性幹細胞(ES細胞)に似た性質を持つ、この万能細胞を人間でも作ることができれば、患者と同じ遺伝子を持つ臓器が再生でき、拒絶反応のない移植医療が実現すると期待される。11日の米科学誌「セル」電子版に掲載される。
 成功したのは、同研究所の山中伸弥教授と高橋和利特任助手。
 山中教授らは、ES細胞で重要な働きをしている遺伝子には、体を構成する普通の細胞を“リセット”して、発生初期の細胞が持っている万能性を備えさせる遺伝子があると考え、その候補として24種類の遺伝子を選定。その中から、「Sox2」などの遺伝子4種類を、ウイルスを使って、マウスの尾から採取した皮膚の細胞に組み込んで培養した。その結果、皮膚細胞は2週間後にES細胞と似た形態の細胞に分化した。(読売新聞)

この研究はわざわざ一般ニュースでも取り上げられるだけあってすばらしい成果だと思います。やり方としては格段目新しいわけではなく,アイデアもすでにあり,多くの研究グループがやろうとしていたのですが,実際にできることを示したという点が革新的という類の技術です。よく,水虫の薬を開発できればノーベル賞だという人が(いまだに)いますが,あれと同じです。ただし,この技術はノーベル賞をとる可能性が大いにありますが,水虫の薬はすでに存在しますので受賞理由にはならないでしょう,念のため。

この技術のバックグラウンドと将来の応用の可能性を簡単に説明しておきましょう。

ES細胞(embryonic stem cells)は,受精卵から作製された,体を構成するあらゆる細胞に分化できる能力を有する細胞のことです。難病の治療に大いに期待されています。例えばES細胞から誘導したインスリン産生細胞を糖尿病の治療に,ドーパミン産生細胞をパーキンソン病の治療に,というようにです。

ところがES細胞で一番の問題は,免疫拒絶反応です。ES細胞のもととなった受精卵は,健康なドナーから提供された細胞,すなわち治療を受ける患者から見ると第三者ですので,拒絶反応がおこります。そのために,移植後に生涯にわたって免疫抑制剤の服用を続けないといけません。拒絶反応は現在でも臓器移植や骨髄移植などでも患者のQOLにとって大きな問題となっています。しかし,ES細胞による再生医療的治療では,根治が望まれるため従来の治療以上に解決策が強く望まれています。

解決策には,いくつもの方法が考えられていますが,大きく分けてふたつのアプローチがあります。ひとつめはES細胞作成の際に,受精卵は第三者で,ただし中身の遺伝情報を司る細胞核を患者由来に入れ替えてやることで,患者にとって拒絶反応のないES細胞を得る方法です。しかし,これは韓国の研究グループの捏造の顛末で明らかになったように非常に技術的に難しいようです。何しろ2000件の提供を受けて,1件も成功しなかったのです。

別のアプローチが今回の研究成果に相当します。つまり,体に存在する受精卵以外の通常の細胞の遺伝子をいじり,受精卵の状態に細胞が活動するようにスイッチを入れなおし,これを使ってES細胞もどきの細胞をつくるという方法です。(余談ですが,記事中の「皮膚細胞をES細胞と似た細胞へ「分化」させたという表現は不正確で,「誘導」とするべきです。科学部の記者なら術語を間違えてほしくないところです。)

これにより免疫拒絶反応の問題だけでなく,倫理的ハードルもクリアできます。ES細胞を作製する際,受精卵を採取し,壊す必要があるからです。なお日本では,不妊治療で余った細胞を,ドナーの同意を得た上で実施することになっています。新規の技術を使えば,受精卵経由でなくとも多能性幹細胞が得られるわけですから,患者にとってもドナーにとっても願ったりかなったりなのです。

マウスのES細胞が開発されたのが1980年ごろ,ヒトES細胞樹立にはそれから15年以上要して1998年までかかりました。同じように,この技術がヒトで展開されるまでさらに数年もしかすると10年以上かかるでしょう。けれども方法が明確に示され,すでにマウスでできることが実証されているなら,誰かが近い将来必ずやり遂げることでしょう。

ところでこの技術は4つの遺伝子を同時に導入するというテクニックを使います。最近停滞気味の遺伝子治療は,案外この技術の延長線上で医療としての居場所を見つけるかもしれません。できるなら,権利化で足踏みせず,心意気のある研究者によって実現され,広く医療として普及してほしいと思います。

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Feb 16, 2006

阪大捏造論文の処分

企業や官庁,政界なんかではまじめにやっている人間が馬鹿を見るような風潮が多くのニュースで目に付くようになりました。科学の世界だけは,そういう世界と一線を画すべきなのに,きょうは非常に残念なニュース。もはやどこもかしこも嘘だらけです。

論文データ不正、阪大2教授停職…他にも3本ねつ造?

 大阪大大学院医学系研究科などの論文データねつ造問題で、同大学は15日、論文の共同執筆者の下村伊一郎教授(42)を停職14日、竹田潤二教授(53)を同1か月、特任研究員(36)を戒告とする懲戒処分を発表した。
 論文の第一筆者の医学部6年生は厳重注意にし、倫理面の特別教育を行っている。同大学はさらに、研究グループが別のテーマで投稿した3本の論文で、ねつ造の疑いのあるデータを使っていたことも新たに明らかにした。
 大学によると、たくさん食べても太らない酵素をマウス実験で見つけたとする論文(2004年10月の米医学誌ネイチャー・メディシン電子版に掲載)など複数の論文で、学生が作成したねつ造データや改ざんデータが使用された。新たに明らかになった3本の論文はがんや免疫がテーマだったが、却下されるなどして掲載されなかったという。
 同大学は、両教授の学生への指導が不十分だったとし、適切に対応していれば、不正に気づくことができたと指摘。
 さらに、論文の執筆者を決める立場にあった竹田教授名の口座に、学生が2度にわたって寄付金100万円ずつを入金したにもかかわらず、竹田教授は大学に報告しなかった、などとしている。
 学生の父親の大阪大名誉教授は15日、「息子は論文のねつ造に一切かかわっていない。教授に言われた通りにしただけだ。近く名誉棄損で教授らを訴える」と語った。2人の教授の停職期間が研究科が当初示した停職3か月より大幅に軽くなったことも批判した。(2006年2月16日1時47分 読売新聞)


これはちょっと対応甘すぎるというか,最悪の結論のつけ方ですね。許されないのが指導教官や研究員に対する処分。論文のコレスポでもある指導教官は捏造の全責任をとってすすんで辞職というのがスジでしょう。科学の発展を進展させるどころか,研究費を無駄遣いし,同業者の時間と労力を水の泡にするような人間がたかだか2週間や1ヶ月の休職で済むというのは信じられません。しかも1ヶ月と2週間の期間の差は,寄付金を自分の懐にいれたためという情けない理由。・・・阪大でこれですから,はっきりいって日本の科学界の倫理観は絶望的な状況です。東大でも不正論文があり残念でしたが,少なくともその処分だけはまともな倫理観をもって対処してもらいたいものです。

今回のような処分で済むなら,捏造は続出することでしょう。捏造でも妄想でもでたらめな論文を書かせ,その論文を自身の業績として発覚するまでに教授職まで登りつめ,あとは学生の責任にすれば自分は無罪放免となるわけですから。

教官・共同研究者はデータが捏造であることを知っていたなら,自身も捏造に関与していたひとりとして処分を受ける必要があります。データが捏造と知らなかったというなら,生データを見ていないということになり,指導者としての責務が問われるでしょうし,科学者としてのデータを見る目も問われます。これまでの業績が捏造で構成されたものならば,研究者としての評価からもそれらも差し引いて考えなければなりません。いずれにせよ教授という立場が適切であるとはとても思えません。

ところでもちろん,実際に手を動かしたファーストオーサーの学生の責任がなくなるわけではありません。学生は自分は捏造はしていないと,教授を相手に訴訟を起こすと言っているそうです。自分がファーストで書いた論文なのに,自分のデータじゃないと言いはるつもりなのでしょうか。

一体この人たち全員本当にサイエンスに携わる人たちなのか目を疑いたくなります。科学者の倫理観の育成は急務ですが,即効があるわけではありません。しかも実際の教育の現場では倫理教育はほとんど未だなされておりません。ですから残念ながら現時点では,不正には懲罰をもって対処するしかありません。

今回は,科学の世界でこれ以上ないという酷い罪を犯したわけですから,問題提起の意味も含め,コレスポの懲戒免職,ファーストオーサーについては,まともな指導者のもとでの倫理再教育と当面のグラント応募禁止などの厳重処分以外に選択の余地はないと思います。

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Feb 04, 2006

スキムミルクその後

冷蔵庫整理していたら,さらに年代モノのスキムミルク溶液を発掘。流しに捨てようとすると・・・・固化してる。。。
ミルミルになったスキムミルクはさらなる醗酵を遂げるとやはりヨーグルトになるようです。(笑)

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光るメダカ

きょうも興味を引かれた記事をクリップ。

遺伝子組み換えで光るメダカ出回る、環境省が回収を指導

 国内での販売が承認されていない、遺伝子組み換えによって体が蛍光色に光るメダカが約800匹輸入され、全国の観賞魚店などで販売されていたことが分かり、環境省は3日、業者に対し販売の中止と回収を指導したと発表した。
 未承認の遺伝子組み換えペットの国内流通が判明したのは、2004年2月に遺伝子組み換え生物の使用を規制した「カルタヘナ国内法」が施行されて以後初めて。同省は「購入した人は河川に放さずに店に返品してほしい」と呼び掛けている。
 光るメダカは01年に台湾のタイコン社が開発。発光クラゲの遺伝子を組み込んだことで、全身が黄緑の蛍光色に光る。1匹1000―2000円で売られていた。
 遺伝子組み換え生物が一般環境中に流出すると、在来種との交雑などで生態系を乱しかねないため、国内で流通させるにはカルタヘナ国内法に基づく承認を得なければならないが、光るメダカは申請が出ていなかった。また、メダカは輸入時に検査がないという。〔共同〕 (23:09)

GFP(緑色蛍光タンパク質)を導入したメダカです。このメダカはブラックライトなどの短波長域の光をあてると,緑色の蛍光を発します。

特定の細胞や組織に目印をつけておく手段として蛍光タンパク質を細胞内に導入する技術,これはもうバイオ研究ではもはや当たり前の手法として実施されていて,組織の発生や,移動,分化などの研究に欠かせません。

たとえば,ある特定の遺伝子の発現を調べたいときは,その遺伝子に続けて発現するように下流にGFP遺伝子を仕込んでおけば,目的の遺伝子が発現すれば緑に光ります。特定の薬剤に反応したときに光るようにするとか,ある種の細胞のみ光るような細工をすることもカンタンです。

通常,実験的に作られた組換遺伝子生物は,研究室内で厳密に管理されていることになっています。ですが,もし人工的に導入した遺伝子を組み込んだ生物が逃げて,野生種と交配してしまったら導入遺伝子はその子孫に受け継がれ,新種が拡散する可能性があるわけです。GMO作物の本質的な問題点のひとつもこの点です。

これに関連して,こんなニュースもあります。
緑に光る「蛍光ブタ」 台湾大が成功

GFP導入ブタの細胞は研究目的としては非常に有用と思います。私も蛍光ブタの細胞を研究用に使いたいです。それはともかく彼らの主張のポイントのひとつは,「メダカは逃げて自然交配するかもしれんが,ブタなら逃げて野生種と交配することはないから安全」という点があったと思います。まあ,おっしゃるとおり,確かにそうかもしれません・・・。

2つめニュース中では,光るメダカについて「台湾をはじめ、日本や香港、マレーシア、米国などの市場に出荷している」としれっと述べられています。しかし日本は最初のニュースで書いてあるとおり,法律で禁止されているのです。要するに密輸。

禁止しているカタルヘナ法というのは,遺伝子組換生物を規制して,生態系の多様性を確保しようという狙いで採択された,カタルヘナ議定書というのを受けた法律です。
マレーシアも日本とともに批准してるんですけど。。。まぁいいか。。。

ちなみにGMO大国のアメリカ合衆国は,この方面でもあいかわらず全世界を向こうに張ってこの議定書にも批准していません。業界団体とかが強いんでしょうね,想像してるだけですが。

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